木村 芳孝
Title   名誉教授,医師,医学博士
Institution   東北大学
Department   医学部/医学系研究科
Adress   東北大学病院
青葉区星陵町1-1

Research

胎児心電図の研究

1. 背景:胎児心電図を母体腹壁から計測することの難しさ

胎児の元気な状態を計測する理想的な方法は心電図をとることです。 また、妊娠経過を追い胎児の状態を調べることは大変重要なことです。 妊娠中は、お母さんのお腹の上に電極をはって胎児の心電図を計測できること(腹壁誘導胎児心電図)が望ましいのですが、ほんの数年前までは、腹壁誘導胎児心電図は実現不可能だと考えられていました。

お母さんのお腹の中の赤ちゃん(胎児)の心電図(5μVから20μV)は、お母さんの心電図(約1000μV)の200分の1から大きくて50分の1です。 お母さんのお腹の筋電図が30μVから100μV程度で、通常の電源から出るハムノイズが約20から50μV程度ですから、通常の装置で胎児心電図をとることは、原理上不可能です。

2. 研究紹介:新しい計測理論と計測装置の開発

われわれはノイズにうずもれた信号を抽出する新しい情報理論を作りました。 これは情報の持つ確率的な構造の違いにより信号を分ける新しい手法(独立成分分析法)を改良したものです。 このことにより従来の独立成分分析法の欠点であった解析の不安定性を取り除き高ノイズ下での安定した計測を可能にしました。 また、従来の生体アンプや電極は体表の数μVの電位計測には対応していませんでした。 新しい計測原理に基づき生体アンプの特性を決定し、また、それ自体でフィルタリング機能をもつ特殊電極を開発しました。

図2は胎児心電図の実際の計測機械です。 この装置により確率分布の類似した参照信号を使い高ノイズの中から胎児心電図の抽出を可能にします。 また、双子(双胎)の心電図も時間的な分布の差を利用して別々に計測可能になります(図3)。

3. 今後の展望

現在、母体の体同時にも計測可能になるよう、母体の状態を自らが判断してフィルタリング機能を変えるインテリジェント電極の作成を計画しています。 これによって、日常生活の中や、車の運転時などの胎児の状態把握に使かえ分娩前の在宅モニタリングや通院中の車中モニタリングが可能になる(ユビキタス胎児母体モニタリングシステム開発)と考えています。 また、以前から行っていた胎児心拍変動の研究を飛躍的に発展させるための長時間モニタリングの研究(無拘束胎児母体モニタリングシステム開発)も進めています。 また、世界で初めてマウス胎仔心電図を用いた子宮内での状態計測に成功し、この応用として胎児低酸素時などの遺伝子ネットワークの変化と心拍数変化の関係を研究しています。


【 主な共同研究 】

  1. 同志社大学(小西行郎先生)、九州大学(諸隈誠一先生)、香川大学(金西賢治先生)、京都大学(近藤英治先生)、理化学研究所(桜田一洋先生)、福岡市立こども病院(月森清巳先生) 「胎児発達の多様性に関する探索的研究」
  2. 京都大学(最上晴太先生)、香川大学(金西賢治先生)、九州大学(諸隈誠一先生)、岩手医科大学(羽場巌先生)、理化学研究所(川上英良先生)、福岡市立こども病院(月森清巳先生) 「胎児生体信号を用いた次世代胎児モニタリング診断技術の研究」
  3. アトムメディカル株式会社 「胎児心電図臨床応用研究促進」
  4. 神奈川県立こども医療センター(川瀧元良先生) 「胎児心電図の研究」

【 胎児心電図研究の国際展開 】

  1. Children’s National Health System (Washington DC, USA)
  2. Khalifa University (Abu Dhabi, UAE)
  3. The University of Philippines (Manila, Philippines)